「新しい戦前にさせない」共同テーブル・アピール〜暮らし(いのちき)は武器で守れない

 暮らしを大分では(いのちき)と呼ぶ。いのちを連想させる味わい深い方言である。政府は憲法9条を捨てて軍備拡大に踏み出そうとしているが、それは生命を削り、暮らしを壊す道である。暮らしと軍拡は両立しない。戦火の消えないアフガニスタンで、中村哲さんは井戸を掘り、暮らしを建て直して平和を築こうとした。憲法9条を持つ日本の中村哲さんはそれまでフリーパスでアフガンを歩くことができた。しかし、イラクへの自衛隊派遣が、その平和のパスポートを奪う。だから、哲さんは国会で「自衛隊派遣は有害無益」と訴えた。軍隊が国民を守らないことは旧満州や沖縄の例で明らかである。
 軍備に頼らない平和を求めるために、私たちは「安保三文書」を徹底批判する。暮らし(いのちき)か、軍拡か。三橋敏雄という俳人は「過ちは繰り返します秋の暮」と詠んだが、私たちは愚かな軍拡の道を選ばない。

2023年春  
共同テーブル発起人
浅井基文(元広島平和研究所所長・政治学者) 安積遊歩(ピアカウンセラー) 雨宮処凛(作家・活動家) 伊藤 誠(経済学者) 植野妙実子(中央大学教授・憲法学)  上原公子(元国立市長) 大内秀明(東北大学名誉教授) 大口昭彦(弁護士・救援連絡センター運営委員) 海渡雄一(弁護士) 鎌倉孝夫(埼玉大学名誉教授) 鎌田慧(ルポライター) 金城実(彫刻家) 纐纈厚(山口大名誉教授・歴史学者) 古今亭菊千代(落語家) 佐高信(評論家) 清水雅彦(日体大教授・憲法学) 白石孝(NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長) 杉浦ひとみ(弁護士)  竹信三恵子(和光大名誉教授・ジャーナリスト) 田中優子(前法政大学総長) 鳥井一平(全統一労働組合・中小労組政策ネットワーク) 前田朗(朝鮮大学校講師) 宮子あずさ(随筆家)  室井佑月(小説家・タレント) 山城博治(沖縄平和運動センター顧問)


「安保関連3文書」の閣議決定に抗議し、撤回を求める声明                              共同テーブル 2022.12.22

 12月16日、岸田政権は「安保関連3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を閣議決定しました。これには憲法との関係でも手続的にも実際上の危険が大きい点でも問題があり、到底認めることはできません。
 まず、憲法との関係です。憲法9条1項は戦争を放棄し、2項は戦力を保持しないとしています。憲法学界では、自衛隊が「戦力」にあたるから違憲であるという説が多数説ですが、政府は「自衛のための必要最小限度の実力」は「戦力」に当たらないから憲法上認められるとしてきました。ただ、平和を求める世論を背景に国会論戦によって、自衛隊の海外派兵の禁止、専守防衛、集団的自衛権行使の否認、防衛費のGNP比1%枠といった9条に基づく制約も作ってきました。これらによって自衛隊を他国のような軍隊にしなかったはずです。
 しかし、安倍政権の下で限定的な集団的自衛権の行使が可能になりました。さらに、今回の「安保関連3文書」では、「反撃能力」の保有をうたっています。この定義は、「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」というものです。とはいえ、自公合意では「相手国が攻撃に着手したとき」に「反撃」可能としており、これは場合によっては「先制攻撃」となり専守防衛に反します。また、日本に対する攻撃がない段階での「存立危機事態」でも攻撃するものです。「先制攻撃」ではない「敵基地攻撃」でも、海外派兵の禁止に反します。「先制攻撃」としての「敵基地攻撃」は国連憲章51条の武力攻撃の要件に反し、「先制攻撃」でなくとも相手国基地に限定しない「相手の領域」での攻撃は同51条の均衡性の要件にも反します。防衛費をGDP比2%にすることは、日本が防衛費・軍事費で世界第3位の軍事大国になることであり、「実力」とは言えないレベルです。従来の政府の立場からしても、到底許容されるものではありません。
 次に、手続き上の問題です。憲法9条に基づく従来の制約を変更するなら、主権者国民(憲法前文及び1条)を代表する議員から組織される国会(憲法43条)で審議すべきです。これを閣議決定だけで変更するというのは、民主主義・立憲主義に反する行為と言えます。
 さらにこれら文書のもたらす実際上の重大な危険も見逃せません。朝鮮・中国・ロシアを敵視し、先に日本が攻撃した場合、相手国から原発が攻撃されたらどうなるのでしょうか。核兵器を使用したらどうなるのでしょうか。今、必要なのは、軍事による国家の安全保障ではなく、人間の安全保障ではないでしょうか。ロシアによるウクライナ侵略から学ぶべきことは、東アジアで日米韓・朝鮮・中国・ロシアとの安全保障の枠組を作ることではないでしょうか。「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」(憲法前文)はずです。戦争の予防・信頼関係の構築こそが人間の安全保障につながるものです。

 来年の統一地方選挙では、「安保関連3文書」を決定した自公両党の議席を減らし、憲法理念の実現を目指す立憲野党の議席を増やしましょう。今後の総選挙で政権交代を実現し、「安保関連3文書」の閣議決定を撤回し、東アジアでの平和を構築していきましょう。


改憲法案拙速採決に反対する法律家団体声明 2022.4.22

 

『日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律』

(公選法並び 3 項目改正案)の拙速な審議採決に反対する法律家団体の声明

 

 

2022年4月22日

 

改憲問題対策法律家6団体連絡会

 

社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一

 

自由法曹団 団長 吉田 健一

 

青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野 格

 

日本国際法律家協会 会長 大熊 政一

 

日本反核法律家協会 会長 大久保賢一

 

日本民主法律家協会 理事長 新倉 修

 

 

衆議院憲法審査会では、「日本国憲法の改正手続きに関する法律」(以下「改憲手続法」という。)について、令和元年(2019 年)58 日成立及び令和 4 年(2022 年)331 日成立の改正公職選挙法 3 項目に並べて改正する法案提出の動きが出ている。改憲問題対策法律家 6 団体連絡会(以下、「6 団体連絡会」という。)は、以下の理由から、上記改正法案の衆議院憲法審査会での拙速な審議と採決に強く反対する。

 

1 「公選法改正並び」の3項目についてのみ今国会で改正を急ぐべき理由がないこと

 

上記改憲手続法改正案は、①悪天候で離島から投票箱を運べなかった経験を踏まえた開票立会人の選任に係る整備、②投票立会人の選任要件の緩和、③FM 放送設備による憲法改正案の広報放送の追加の 3 項目について、公職選挙法改正にそろえるためと説明されている。しかし、今回の改正案は、場当たり的で非合理な改正案と言わざるを得ない。離島の投票環境の向上は重要だとしても、開票立会人についての整備だけでは不十分なことは明白である。また、投票環境の改善は離島に限られず、ほかにも議論すべきことは山ほどある(2021420 付慎重審議を求める 6 団体連絡会声明ほか)。3 項目のみを急ぎ改正すべき理由は全くない。

 

2 改憲手続法の本質的問題点(附則 4 条の措置)が全く議論されていないこと

 

昨年 611 日、公選法並びの 7 項目の改正改憲手続法が、「施行後 3 年を目途に」、投票人の投票環境の整備に関する事項、有料広告、資金規制、インターネット規制など、国民投票の公正を確保するための事項について「必要な法制上の措置その他の措置を講ずる」とする附則4 条が加えられて成立した。憲法改正国民投票は、主権者である国民の憲法改正権の具体的行使であり、国民に平等に投票の機会を保障し、公平公正を確保する手続きであることが憲法上強く要求されている。

 

ところが、自民党は、附則 4 条の措置についての議論を棚上げにし、法制上の措置を講じなくても改憲発議(憲法 96 条)は可能と強弁している。CM 規制などの改憲手続法の本質的な欠陥を放置したままで憲法改正発議をすることが憲法上許されないことは国民主権原理から自明であり、附則 4 条の改正議論は優先して行われるべきである。3 項目の改正が済めば自民党は、附則 41 項の例示事項の改正を終えたことを理由に、その余の本質的欠陥是正の立法審議には応じない危険性がある。

 

3 項目改正案の拙速採決は、自民党が狙う憲法 9 条改憲の環境を整えるだけであること

 

以上のとおり、今回突如浮上した公選法並びの 3 項目の改憲手続法改正案を急ぎ成立させるべき立法事実は全くない。3 項目改正案の審議採決は、衆議院憲法審査会で自民党が狙う憲法9 条改憲の議論の道を開き促進するだけの意味しか持ちえない。

 

 以上